「脳腫瘍」と言われたときのショックは計り知れないものがあります。気が動転した状態の中で、 その後のさまざまな話を医師から聞かされ、治療方針などで決断を迫られることがあります。 しかし、その前に落ち着いてください。脳腫瘍にはさまざまな種類があります。
悪性の脳腫瘍をすぐに考えてしまいますが、良性の脳腫瘍もあります。良性の場合は、すぐに手術が必要ではないかもしれません。 逆に悪性の場合は、手術も含め最初の治療が大きな影響を与えるとされています。 実際にはなかなか困難ですが、冷静になって医師からの話を聞くとともに、必要に応じて セカンドオピニオン などを受ける心構えを事前に持っておくことが大切です。
誰が説明を受けるのか
本人と家族がその場に立ち会うことが原則だと言われています。 ただし、患者さんが未成年の場合は家族だけで聞く場合もありますし、 患者さんが精神的に厳しい状況にある場合は、医師と事前に相談せざるを得ないこともあるかもしれません。
本人に話をしない場合は、治療の説明やその後の介護等について家族の側に大きな精神的負担がかかることも考えられます。 話すべきかどうかは最初の段階での決心がその後も影響してきますので、十分に検討してください。 できれば、冷静に考えられる相談相手をこの段階で作っておくこともよいと思います。
なお、医師は個人情報保護の観点から、原則として本人の承諾がなければ家族であっても病状を説明できないことになっています。 そのことを私たちの側でも理解して話をする必要があります。
医師からの話を聞く前に
「脳腫瘍」と聞いただけでどうしてよいかわからない混乱の中で、医師から検査結果と診断、今後の治療についての話があります。 医師が伝える内容を正確に把握し、受け止めて、決断をしていくことは決して簡単なことではありません。 それでも、その場で大きな決断を迫られることもあります。
最初の医師との話は、患者・家族にとっても医師にとっても非常に厳しい局面であることをまず押さえたうえで、 結果を正面から受け止め、これからの治療に前向きに取り組める選択ができるように、 私たち患者・家族の経験から確認しておきたいことを以下に整理しました。
何を聞くのか
医師は、私たちの精神状態を考慮しながら話してくれるかもしれませんし、一度にすべての話ができるとは限りません。 しかし、治療方針を選択するのは私たち自身だという前提に立てば、その判断に必要な話はしっかり聞いておかなければなりません。 できればあらかじめ、考えられる脳腫瘍の種類やその特徴の概要をつかんでおくと、医師の話も理解しやすくなります。
考えられる病名
脳腫瘍には大変多くの種類があり、最初の段階でひとつの病名に絞られるとは限りません。診断が確定しているなら、良性か悪性か、病理診断が出ているかも聞いてください。
病名は治療法の選択やセカンドオピニオンの際に大変重要な情報です。専門用語が並ぶため、しっかりメモを取りましょう。可能であれば医師にメモを書いていただいたり、英語の病名も聞いておくと後で役立つことがあります。
症状の説明
現在の症状がどんな理由で起きているのか、今後どのようになることが考えられるのかが話されます。頭痛や発作、運動機能や知覚機能の障害などについて、不明なところは遠慮なく聞くようにしましょう。
腫瘍の位置と大きさ
MRI の画像などを見ながら説明を受けられることが多いでしょう。浸潤性(じわじわと広がる性質)かどうか、腫瘍の大きさやできた部位によって治療法や経過の見通しも違ってきます。治療の経過で変化していくため、しっかり見ておきましょう。
MRI の画像はセカンドオピニオンを受ける際の重要な資料になります。借りるかコピーをお願いできる場合がありますので、遠慮なく申し出ましょう。直接医師に頼みにくいときは、事務の窓口で相談できることもあります。
病理診断
検査結果がまだ出ていない段階でも、医師の予想が聞けることがあります。脳腫瘍の種類によっては、経験を積んだ病理診断の医師でも判断が難しい場合があるとされ、診断が出るまでに 2〜3 週間かかることもあります。
病理診断が出ていれば治療法も絞られてきます。セカンドオピニオンの際に確認されることが多いため、しっかりメモを取り、可能であれば病理診断書(コピー)を主治医にお願いしてみてください。
治療の方向性
一番重要なところです。治療の選択肢がひとつだけなのか、いくつかあるのかを聞きます。それぞれの治療法によって経過の見通しや後遺症などの問題が変わってくるため、遠慮なく質問してみましょう。
同じ病気でも年齢や生き方の選択によって治療法の選択は変わってきます。小児、特に発達しつつある乳幼児の場合は治療による影響が大きいため、慎重な判断が必要とされています。可能ならメモを取り、他の医師の意見を聞いて妥当性を判断する(セカンドオピニオン)ことも大切です。
治る可能性
私たちにとって一番聞きたいことであり、医師にとって一番答えにくいところでしょう。脳腫瘍の種類や悪性度、治療法の選択や個人差によって、この段階で確定的なことは聞けないかもしれません。
「治る」という意味がどこまでのものなのか(病気以前の状態に戻るのか、後遺症は残るが再発の可能性が低いのか など)を私たちの側でも整理しておきましょう。この話は治療の経過や手術の後など、折に触れて話されると思います。
手術の必要性とリスク
特に悪性の場合は手術が必要となる場合が多く、腫瘍の種類・位置・大きさ、小児や乳幼児であるかどうかで難しさが変わってきます。腫瘍をすべて摘出(全摘)できるのか、できない場合はなぜなのかもしっかり聞きましょう。
手術にはリスクが避けられません。摘出そのものによる影響のほかにも危険性がないとはいえないことを理解しておく必要があります。また、手術だけではなく放射線治療や薬物療法と組み合わせた治療(集学的治療)が必要な場合も多いため、そのような体制が整っているかどうかも大切な判断材料になります。
化学療法(薬物療法)の説明
化学療法が効きやすい腫瘍もあれば、そうでない腫瘍もあるとされています。なぜその方法がよいのか、選択肢があればそれぞれの特色と、これまでの有効率(奏効率)についても聞いてみましょう。腫瘍の悪性度や個人差によって確定的なことは聞けないこともあります。
副作用や合併症(全身倦怠感、食欲低下、発熱、嘔気・嘔吐 など)と、その対処方法もあわせて聞いておきます。多くは一過性とされますが、治療期間中は主治医と相談しながら改善策を講じていきます。
また、その治療をどこで受けられるのか(その病院で完結するのか、自宅近くの病院で継続できるのか、入院が必要か)は、治療が始まると大変大きな問題になります。難しい医薬品の名前はしっかりメモを取りましょう。
放射線治療の説明
放射線がよく効くとされる腫瘍もあります。手術の後に照射する場合や、化学療法と組み合わせて行う場合もあります。放射線治療の有効性と、いつ・どこで・どのくらいの期間行うのかを確認しましょう。
放射線の量は「グレイ」という単位で表されます。何回でも照射できるわけではなく、脳に対する総量は 70 グレイが限度といわれています。副作用(口内炎・脱毛・全身倦怠感・嘔気 など)と対処方法もあわせて確認しましょう。
近年は定位放射線治療といって、多方向から腫瘍に集中して照射し、周囲の脳への影響を抑える方法も行われています。乳幼児の脳は放射線の影響を受けやすいとされ、小児の場合は治療経験の豊富な病院で慎重に検討される必要があります。
交流電場腫瘍治療(TT フィールド)について
初回手術後に膠芽腫と診断され、初期治療の放射線療法とそれに併用する化学療法が終了した方の維持療法として使用される治療法です(保険適用は初発膠芽腫のみとされています)。
低強度の交流電場(Tumor Treating Fields)を脳内に発生させ、急速に増殖している腫瘍細胞の分裂を阻害するように作用するとされています。局所に限定した非侵襲性の治療法で、全身性の副作用は増大させにくいとされていますが、適応や効果は個々の状況によります。詳しくは主治医にご相談ください。
緩和ケア
緩和ケアは、重い病気がわかった時から始まる、身体的・精神的な苦痛をやわらげるためのケアです。 痛みやその他の不快な身体症状の軽減を図るとともに、精神的、社会的な援助を行います。 患者・家族を中心に、医師や看護師、ソーシャルワーカー、栄養士など多岐にわたる職種がチームとなって担当します。
悪性腫瘍の場合は、時として厳しい告知を受けることがあります。冷静に受け止めることは簡単ではありませんが、 限られた時間をどう大切に生きるかを考えるとき、脳外科医以外の相談相手(医療ソーシャルワーカーやケアマネージャーなど)を 見つける準備も必要になります。私たち経験者(サバイバー)も、同じ立場で語り合い、分かち合うピアサポートに努めています。
治療の一般的な流れと各段階で利用できる支援制度は 治療の流れと受けられる支援、 別の医師に「第2の意見」を求める手順は セカンドオピニオン のページをご覧ください。